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MARQUEE Vol.81 裏話:The Mirraz

  • Posted by: MMMatsumoto
  • 2010年10月18日 03:54
  • MMM

"ゆるい"っていうことや"ポップ""カワイイ"っていうこと。
こういうまあるい印象のことも、
ちゃんと表現に成り得るし、武器にだってなる。
ってことを、感覚上なかなか理解できない人達が多い。
夏の魔物事件を通じて、僕が本当に取り上げたかったテーマは、それです。

ミイラズの場合は、パロディ、ブラックユーモア、ギャグだけど、
要するに、ストレートでラウドで上半身裸で声腹からデッカクみたいな、
そういうのがすべてじゃない!って言いたいわけです。
それもたくさんある表現の仕方の中の一つ。
ここを、まず確認のうえ、お願いします。

もちろん僕はこのイベント主宰者の成田くんとミイラズを殴った人を
非難したいがために、この記事を作ったわけじゃないし、
記事にすることでミイラズ・ファンを焚き付けたいわけでもない。
第一、僕はその現場に行っていない。
だから何がどうなってこの事件が起こったかも、
実際どうだったかもわからない。
つまり、そこに触れることは出来ないわけです。わからないから。

仮に現場に居たとしても、また仮に本人達に話を聞いてみたところで、
感覚の違いもあるだろうし、誰がどれくらい本心を言えるかもわからない。
そこは記事の起点にならない。参考程度にしか。
殴られたという事実と、殴った人のブログに書かれていた心情、
それとミイラズがやっている事(表現の仕方)、
その他成田くんのナタリーでのインタビューが、記事の起点です。

どっちが悪いかとか、ハッキリ言って僕はどうでもいい。
というか、記事のテーマにはあまり関係ない。
そういう事は、まず当事者間で解決をはかるべき事だから。

記事の最初に載せたミイラズ畠山くん宛てのメールを書いた後、
成田くんが、今回の件を含めた2010年の夏の魔物全体についての、
さらには今後とリスナー達に向けた彼の提案をブログに出した。
率直な感想としては、「この人はイベントやれるな」というものでした。
責任を取れる人だと感じたからです。

ツイッターでも頻繁に騒がれたナタリーでのインタビューの「淘汰する」、
あの発言は、今の音楽・イベントをより活性化したいという気持ちのもと、
檄(げき)を飛ばすのと、イベントを話題にしたいという多少なりの宣伝意識がオーバーランした程度のことに感じる。
彼の本心は、他イベントへの批評精神も込め、
音楽シーンを活性化したいというほうに重点があるわけで、
「淘汰する」→「何様だ」という野次馬的群衆意識のほうが
よっぽど目に余るものがあった。
「も少し行間読めろよ!」っていうか、
「ナタリーのインタビューにしても全体の流れをもっと読解できるだろ!」
「これが出来ない奴が結局音楽をっていうか
世の中をダメにしてるんじゃん!」って
僕は内心ずーっと以前から常々思ってます。

ということを全部承知の上で、僕は以下のことを思うわけです。

ガッとしてたり葛藤見せたりしてるのと同じくらい、
というか僕はそれ以上にポップであったりゆるいってことやパロディは、
よっぽど高度な事だと感じます。
真剣にやろうとするものなら。
片手間や雰囲気や自分隠しの口実代わりじゃなくて。

ゆるい事を真剣にやるってわかりますか?
CORNELIUSとかTommy february6とかThe Mirrazなんかがやってる事です。
ゆるい、ポップ、カワイイ、笑い等を表現として意識的に、
ある意味作為的にやるというスタンスのもと、
それを自分の欲求に従ってやり切るっていうことです。
ガーってポップだったりカワイかったり笑えたりして入り込んでる自分を、
もう一人の自分が客観的に見ているっていう感覚です。
やってる最中は、もちろん本気。
やる前の普段の感覚が、いろんな事を感じ取りながら時には分析もしつつ、
みたいな感性でいる人達のこと。というか、そういう性分の人達。
多視点で客観的、つまりフラットなわけです。
バランスの取り方にしても左右均等みたいな一通りじゃなく、
片っぽが質量大きければ小さくてもOK、
その代わりもう片方は軽くて大きくて離れてるとか。
前と後ろという関係でもいいし、3極でもOK。無限に考えれる人達。
簡単に言うと、あらかじめ決められた事だって、
その場でより良くなりそうならどんどん変化していけるだけの
柔軟性を普段から持っている人達ということです。
直球は、その中の選択肢の一つ、ということです。
直球がすべてではないし、正しいわけでもないし、
そもそも表現に正しい/間違いはなくて、あるとすれば"強度"くらい。
自分がやろうとしている事をどれだけやれるか、この一点。
ミイラズなんかは、ゆるいっていう強度が大きい(強い)わけです。
どの程度かと言うと、
曲タイトルや歌詞やグッズやステージ映像にまではみ出てるくらい。

主宰者の成田くんも、ただ直球ロックなだけの人じゃない。
それは夏の魔物に、三上寛さんや灰野敬二さんや
元頭脳警察の石塚さんらを呼んでいるからです。
それだけで、そう言える。
なぜなら、彼等は本当に場を選ぶから。
僕は、灰野さんや石塚さんに取材してきたからわかる。

「松本くん(オレです)、この楽器、東南アジアの露店で買ったんだけど、売ってた人もどうやって弾くのかわからないって言うんだよ。これがこの楽器の完全な状態かもわからない」
「じゃあ、灰野さんはどうやってこの楽器を弾くんですか?」
「自分の気に入った音を鳴らしていくんだよ」

そう、創ってく、自分から、音を。そういう人です。
表現者・灰野敬二を理解するには、これだけでも充分かと。
ミュージシャンやるって言うんなら、こういう視野、スタンスが欲しい。
歌メロのバッキングって普通そうやるって言うけど本当にそれでいいの?
っていう所くらいからはせめて出発してほしい、Peopleみたいに。
こういう発想の自由さ、本来から出発していく姿勢というか。
その先に、多くの人達の感覚上の共通言語として
ドレミ~があるっていう認識ならOKなんだけど、
最初からドレミ~が絶対と思い込んで、
その半音の半音を余計な音と認識しているなら、
それは音楽の可能性を閉ざす。
そこに気付いてほしいわけです。
たくさんの音がある中のドレミ~であることを知ってると、
もっと音楽に余幅(いい加減さ)があるというか。
具体例で言うと、ポップな形で出た例としてはPIZZICATO FIVE、
ロックンロールな形なら毛皮のマリーズとか。そういうことです。

灰野さんとのその会話は、もう10数年前の話。
こういう音楽意識の人達を複数呼べてるっていうだけで、
僕は成田くんの意思が汲み取れる。

でも、例えばTommy february6が何やっているのか、
その遊び感覚がわかっているのかどうかなんですよ、
本当に僕が成田くんにもまだ未知なリスナー達にも問いたいのは。
幅広いって言う、その幅広さって、
少なくとも今のフィールドだけに限定してももっとある。
本来は、ジャズやクラシック等も加算されて、
ドレミファ音階以外の世界もあるわけだから。
だから今の彼のチョイス(つまり感性)が
今年の夏の魔物ということなんだけど。

今の広義ポップミュージックの中で、
ユーモアとかパロディとかカワイイとかは、やたら軽視されがちで、
大抵の音楽誌だってちゃんと見極めようとしない。
ギターが鳴ってないからとか、口パクだからとか、
オシャレだからとか、そういう視野の狭い口実をもうやめてほしい、
僕はずっとそう思って、この雑誌マーキーも続けてます。
そんな事を言うのなら、むしろギターなくて口パクでオシャレで
音楽なり個性を確立するなり発信するのは大変ですよ。
内面葛藤どころじゃない。
もっとコーディネート力とか自己プロデュース力とか
発想力のいることで、相当な事ですよ。
音楽もそこまで行っていいんですよ。
もちろん音楽だけでもいい。それも直球で。
けど、行ってる人達に向かって、
ギターなくて口パクでオシャレだからっていう無理解は、
ちょっと了見が狭すぎはしないかと思うわけです。
できれば、理解を10代の感性が柔らかい内から広げていってほしい、
そうも思って31年前からこの雑誌は、
時代ごとに手を変え品を変えやってます。

"ゆるい"が本当に"片手間"な人もいた。昔の渋谷系とか。
でもその中でCORNELIUSみたいに生き残った人達は、
やっぱりその"ゆるい"を当時から真剣にやってた。
今はそれが毛皮のマリーズやThe Mirrazでしょ。
ユーモアを真剣に音楽に変換してる人達。
ロックな形してるだけで。
本質はメンタリティだから音楽って。表現っていうもの自体が。

簡単に例えると、これまで、直球か変化球かが基準だった。
これからは、直球/変化球に関係なく、どれくらい自分の球を投げ込めるか、
最初にも書いた強度、そこが基準になってきてると感じてます。
リスナーこそ明日のミュージシャンだから、
これは受け手/送り手も関係なく双方に言いたい事なんだけど。
今ってそういう価値観の転換期かと。
2010年ってそのピーク期なのか第一波なのか、
そういう感じを僕は受けてます。

ちょっと長かった、この文章。
でもマジな話、僕は昔からこういう事を思ってた人間で、
これまで律義なまでに音楽に特化して言ってきたつもりです。
お陰で、何言いたいのかよく分からない雑誌だったかと。
でも、ようやくまともな発言や音楽をやるミュージシャンが出てきたので、
時期が来たなと思ってます。

読んでくれてありがとう。
明日はまた別の裏話を書きます。

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